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CHJ

2020・12

【英語論文】

Tourist behaviour and repeat visitation to Hong Kong.

Wang, D. (2004).

Tourism Geographies, 6(1), 99-118.


(要約)

この論文は、観光行動とリピート訪問の関係を調査して研究している。データは1999年に中国本土から香港を訪れた旅行者のサンプルである。この研究より、リピーターは滞在時間が長く、アクティビティが少なく、地域の生活に関わることが多いことが分かった。さらに、そのようなリピーターはショッピングや食事、ホテル代などに大きな金額を費やしています。この以前の研究では、旅先の認知度と親しみやすさが消費者に与える影響を調査している。旅先の認知度と親しみやすさが目的地への関心や訪問の可能性に影響を与えることが分かった。過去の研究より、リピートを動機づける要因として、不満足な経験をするリスクを減らすことができるなどの5つが紹介されている。

分析の結果、リピート訪問数が多い人は、観光において、ホテル外での食事、ショッピング、ホテルにかける費用にかける支出が高くなった。

さらに、訪問経験がある人々は、ショッピングのような支出のみならず、総支出に関しても初訪問の人々と比べて高くなるということが明らかとなった。また、リピーターの獲得の方が、初回訪問客の獲得よりも経済に与える利益は大きく、効果的であることが分かった。これはリピーター獲得に注意を払うことの重要性をより一層強調している。


(感想)

この論文を読んで、観光地へのリピート回数が増えれば、増えるほどその観光地に対しての支出も増加することが分かった。このことは一見すると明らかなことのように思えるが、実際に数値データを用いて分析していることにより、さらに説得力も増している。観光客の立場から考えると、リピートしてまで行きたいところであるはずだから、きっと初回の滞在でとても良い思い出があるのだろう。そのような観点を踏まえてみても、観光地において、リピート訪問客の獲得が初回訪問客の獲得と比べて、経済的に重要視されているのもうなずける。そこで、いかにリピート訪問客を確保し、キープできるかどうかがこれからの観光産業を主としている地域、そして日本にとっても重要となってくるだろう。コロナ終息後に旅行する際に、アプローチをかけるべきはリピーターとなりそうな人々なのかもしれない。





【日本語論文】


「Withコロナ時代の北海道観光再考 : インバウンド観光は必ず戻る」

石黒 侑介

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

2020年10月


 (要約)

 日本観光局(JNTO)(2020)によれば、2020年7月の訪日外国人数は前年度比99.9%マイナスを記録した。それは、新型コロナウイルス感染症拡大によって実施された入国規制などが大きな影響であると考える。しかし、本稿ではコロナ禍以前から観光市場の根底で生じていた変化や、コロナ禍でも変わらない本質的な部分について言及する。

 新型コロナウイルス感染症が拡大し観光産業が深刻な打撃を受けた直後、産業界から「マイクロ・ツーリズム」という言葉が発信され、メディアを賑わせるようになった。マイクロ・ ツーリズムとは旅行者の現住地と目的地が比較的近接している観光の形態を指す。北海道で言えば、訪日外国人旅行者や東京などの道外からの誘客ではなく、道「内」から旅行者を誘致しようという考え方である。しかし、マイクロ・ツーリズムがトレンド化した晩春から初夏は、例年、道民にとって旅行シーズンであり、大部分を道民による道内旅行が支えている北海道観光にとって、言わば既存の市場に新しい「タグ付け」をすることにどれだけの意味があるのか、個人的には慎重に見ている。

 また、日本が「ポスト3.1期」に経験したような爆発的成長の後に市場が成熟化し、従来とは異なる思考を持った旅行者が生まれる段階をデスティネーションの「オールタナティブ・ターン」と呼ぶ。言わば「じゃない方」が流行る時期であり、筆者は「VJC期」に初めて来日した東アジ ア市場の旅行者が「ポスト3.1期」では「オールタナティブ・ターン」に入り、積極的にゴールデンルート「じゃない方」を訪れていたと推測している。 中でも北海道は、国内旅行市場でも永年にわたって高い人気を誇り、近年では移住先として 「住みたい町」ランキングでも上位に入る地域であり、「VJC期」に流布された伝統的な日本のイメージとは異なるイメージ、具体的には豊かな自然環境やそれらをいかした高品質なネイ チャー・アクティビティ、独特の農業景観や自然景観のイメージは「オールタナティブ・ター ン」の受け皿として大いに日本のインバウンド観光の成熟化に貢献したとみている。

 以上を踏まえ、Withコロナ時代の北海道観光を考える上で、重要なことは、(1)官民のあらゆるレベルでアジアとの結びつきを再評価し、危機に瀕しても途絶えない関係性を構築すること。(2)北海道の「オールタナティブ・ターン」への備えを行うこと、であると考えている。「オールタナティブ・ターン」は現象として受け止めるものではなく、スペインやハワイ、沖縄のように積極的に能動的にデスティネーションとしての持続性を高めるために取り組まれるべきものであり、危機の今だからこそ、アジア市場に対する北海道の「オールタナティブ・ターン」戦略が求められていると考える。


(感想)

 この論文を読み、初めて「オルタナティブ・ターン」という言葉を知った。コロナ禍以前から有名観光地へのオーバーツーリズムが問題になっていたことを考えると、このような概念が尊重されることは当然のようにも思える、しかし、その重要性は誰しもが分かっているにも関わらず、いまだに改善されていないことから、これを実現するのがいかに難しいかは自明である。この論文の中ではオルタナティブ・ターンが来ると述べていたが、その流れの転換を待つ観光地の苦労は計り知れない。多くの観光客は当然「今旬なところ」「注目が集まっているところ」に行きたいと思い、旅行会社などもそれを分かった上で広告を打ち、ツアーを組むなどする。これは鶏と卵かもしれないが、いずれにせよ「あまり注目されていないところへ行ってみよう」であったり、「自分で穴場観光地を見つけよう」と行った方向へ観光客の意識転換を行うことが非常に重要であると考える。

【書籍】

「世界一訪れたい日本のつくりかた」

デービッド・アトキンソン

東洋経済新報社 2017年 



本書は日本の伝統文化を守りつつ、旧習の縮図である伝統文化財をめぐる行政や業界への提言を続けるデービッド・アトキンソン氏によって書かれた。過去数年で、日本は「観光の後進国」から「発展途上国」になった。さまざまな実績が出始めており、街で外国人観光客を見かける機会も増えた。しかし、日本の潜在能力を考えると、まだまだこんなものではない。本書は、日本の持つ魅力を高く評価している。そのため日本は、力の入れ方さえ理解すれば、もっと海外から観光客を呼び寄せることができる。日本は、やるべきことをやりさえすれば、「世界第5位の観光大国」になれる潜在能力がある。本書では、日本が「6000万人の外国人観光客」を招致できる真の「観光先進国」になるためにとるべき方策を、あますところなく解説している。コロナ禍で、観光客の招致が難しい状況だからこそ、今できることを考えるのに役立つ一冊だと思う。




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