top of page
CHJ

2020・4

【日本語論文】桂 博章 秋田大学総符号基礎教育研究紀要『特集 諸民族の社会と文化』25-31(1994)「バリ島の文化と音楽~バリ島の音楽知から~」

近年の音楽学の歴史として、主たる研究対象を西洋音楽とし、理性と合理的コード体系に基づく西洋音楽に価値を与えることでそれ以外の音楽を周辺的なものとして位置付けてきたという流れがある。その意味でも西洋音楽は合理性を徹底追及した音楽という要素があり、人間の不合理な部分を排除している側面がある。一方で、最近の民族音楽学では人類学等の影響を大きく受け、音楽を人間の持つ不合理な面をも映し出す鏡としてとらえようとする傾向がある。そこからインドネシアのバリ島の音楽は音楽の演奏や構造の中に人間の不合理な面を取り込んだ興味深い存在だといえる。

バリ文化においては善悪の判断を曖昧に行うことで対立や衝突を避けようとする文化もある。そういった点も西洋の合理主義が排除してきた「悪」や「闇」の部分に寛容な姿勢を示し、しかしこれこそが人間の心の原型であるという思想が水面下にある。

バリ島の音楽が象徴するものは「神話的な世界」との結びつきである。学期自体が霊的な力を帯びており、楽器の製作や保管には神話にあやかって霊的要素を含んだ過程を踏んだとされている。また、音楽演奏の意味として、演奏自体は無限のリズムに乗った音色と密度の異なる空間的な響きとして立ち現われ、身体を委ねるものに他者との相互を感じさせる状態を引き起こし、異界に導くような要素が含まれている。

まとめとしてバリ島の音楽は非理性的な身体感覚や共同主観性を音楽構造や演奏に取り込むことによって独特な形式を保っている。西洋音楽が正義であるような偏重主義の流れの中で、このような多様な音楽にも目を向けることで両者を融合することが現代の音楽的課題である。

【英語論文】Clemens Breisinger, Latif, Raouf, Wiebelt. (2020) “COVID-19 and the Egyptian economy. Estimating the impacts of expected reductions in tourism, Suez Canal revenues, and remittances” MENA policy notes4, International, Food Policy Research Institute (IFPRI)

CVID-19(通称:コロナウイルス)によって世界は深刻なダメージを被っています。特に、世界的な行き来が禁止されているために、観光業は打撃を受けている状態です。この論文では、COVID-19によってエジプトの観光業に与えられる影響を評価しています。結論としては、観光業はもちろん、スエズ運河からの支払いと海外で働くエジプト人の仕送り金大幅に減少することが予想されるためにエジプトの経済成長及び家計福祉に大きな悪影響を及ぼすことが判明しました。

中でも、

・航空規制が行われた場合、送金者が雇用されている国に戻れないため、低スキル労働者が先に影響を受ける可能性が高い。

・悪影響を受ける産業があるなかで、食品配達などの特定の分野は恩恵を受ける可能性がある。

という新しい知見を得ることができました。

【書籍】私、B級観光地プロデューサーです! - 日本を真の観光立国にする、とっておきの方法を教えます。大泉敏郎 ワニブックス

要約

著者は北海道、沖縄、京都など誰もが知っており、一年を通して賑わう観光地をA級観光地と定義する。そういったA級観光地とは全体の1%ほどしかなく、残りの99%をB級観光地と呼び、この本ではそんな場所が観光客を呼び込むにはどのようなことが必要なのかについて説明している。B級観光地とは決して二流という意味ではなく、B級グルメ同様、特定のターゲットによっては半端なく魅力的な場所ということであり、そういったコアなファンの獲得がB級観光地にとっては必要なのだと著者は述べる。

感想

著者は観光消費拡大コンサルタントであり、株式会社トラベルジップ代表取締役。ANA・ANAセールスに勤務し、ツアー・イベントプランナーとして活躍。伝説に残る数々の大人気ツアーを企画した。その後、ANA旅行サイトの初代ウェブマスターに就任。2005年、株式会社トラベルジップを設立。全国の観光施設や地方自治体の観光戦略立案と観光ウェブサイト構築を多数手がける。「B級観光地プロデューサー」として、全国各地の観光コンサルティング、講演活動を展開するという経歴の持ち主であり、この本で書かれていることはそんな著者の経験に基づくため、非常に説得力がある。タイトルに惹かれ読んでみたが、単なるハウツー本で終わることなく、観光について本質的に考えさせられる大変名著であると感じた。

閲覧数:31回0件のコメント

最新記事

すべて表示

2022.08

・日本語論文 岡野ら(2019)「観光地への愛着に与える滞在中の経験」日本観光研究学会機関誌Vol. 30 / No. 1 《要旨》 日本の人口は2008年をピークに減少傾向にある。観光客も1990年までは上昇傾向だったが、それ以降は停滞している。観光客誘致のためには初めて...

2022.07

[書籍] 村岡慶輔(2021)”観光再生-サステイナブルな地域をつくる28のキーワード-” ・要旨 移動制限や、訪日観光客が99%減少した日本の観光業がこれからどのような観光スタイルを貫くのか。観光再生するためのヒントや実例が事細かに説明され紹介されている。DX化を進める観...

2022.6

【書籍】 みなかみイノベーション ー群馬県みなかみ町に見る中山間地の地域創生ー】 著者:鈴木誠二 2017年10月発行 〈要約〉 本書は、著者が群馬県みなかみ町で取り組んだ「地域イノベーション」(題して「みなかみイノベーション」)について書かれている。「みなかみイノベーショ...

コメント


bottom of page